活用事例⑨相続円滑化効果(事業の廃業防止)
活用事例⑨相続円滑化効果(事業の廃業防止)
ガラス細工を作っている職人Aさん
Aさんは地元でガラス細工を作っている職人である。若い頃は別の工房で働きながら修行を重ね、20年前に独立した。なお、Aさんは個人事業主であり、Aさんの工房は法人化していない。Aさんのガラス細工のデザインは独特であることと、その特徴ある色味から、人気が高く、全国の百貨店から発注を受けていた。また、Aさんのガラス細工は一定の生産量を確保できるものであることから売り上げは上々であった。Aさんは、妻Bさんを早くに亡くしていたが、2人の子であるCさんは順調に育ち、Aさんの跡を継ぐべく工房で修行していた。
その後、Cさんは、Dさんと結婚し、2人の子、Eさん、Fさんという子宝に恵まれたあともAさんとの関係は良好で、Aさんは2人の孫を大変かわいがっていた。Dさんも、工房には顔を出し、お茶入れなど事務作業を手伝っていた。Cさんの腕も順調に上がり、Aさんの工房は安泰と思われていたとき、突如Cさんが交通事故に遭い、妻Dとまだ小学生の2人の子を残し亡くなってしまった。
Aさんのショックは相当なもので、Aさんはみるみる弱ってしまった。大切にしてきた工房は何とか続けたいと思ったAさんは、かつての師匠の弟弟子にあたるGさんを工房に呼び、自分のノウハウを伝え、今は小学生のEさん、Fさんが希望すれば、Aさんのノウハウを引き継ぐ職人に育ててほしいとお願いした。
Gさんは、これを快諾した。Aさんは、他人が事業に入ることや、後継者が定まっていないことから、工房を法人化しておいた方がいいのではないかと、職人仲間からアドバイスを受けたが、弁護士に相談するまでは至らず、そのままの状態で亡くなってしまった。Aさんの工房をふくめたすべての財産は相続人であるEさん、Fさんに承継されることになったが、まだEさん、Fさんが小学生だったことから、彼らの母親であるDさんがすべてを管理することになった。
これまで、お茶くみや簡単な事務作業を中心にしていたDさんは、自分が経営者になったも同然の状況に舞い上がった。具体的には、取引先の百貨店と強気の交渉を行ったり、Gさんの作業に口を挟むようになった。Gさんは嫌気がさし、工房を離れてしまった。Dさんが、Gさんの代わりに雇った職人は、Aさんのノウハウを引き継ぐものではなく、徐々に取引先は離れていってしまった。このままではEさん、Fさんが成人をむかえるまでに、工房は廃業せざるを得ない状況だ。

- →相談者Aを委託者、
Gを受託者、子E・Fを受益者と設定する。
→信託財産を
「預金」「不動産」「商品」「機会」「ノウハウ」
「継続的売買契約の契約上の地位」「従業員との雇用関係における使用者としての地位」等、
当該ガラス細工の事業を構成するすべての個別資産を特定して設定する。
→当該ガラス細工事業に関する買掛金、
従業員給与等の債務につき、受託者による債務引受を規定し、
当該債務が信託財産責任債務である旨規定する。
→相談者Aが死亡または行為能力の制限を受けたことで事業を行えなくなったことを条件として、
信託契約の効力を発生させる。
→条件が成就するまでは、相談者Aが通常通り事業を行い、
条件が成就した際に受託者であるGが事業の信託を受け、継続して事業を続ける。
→信託の効力が発動した後、
一定時期までにGが残余財産受益者を指定する旨定め、
指名された受益者が承諾することにより信託が終了すると定めることで、
当該ガラス細工の事業を構成する信託財産を残余財産受益者として定められた者が引き継ぐことができる。
→最終的に承継した残余財産受益者がGから、
当該ガラス細工事業を承継することができるため、
相談者Aの希望を叶えることができる。